『国宝』を観てきました

CMや広告で大々的に告知されていた『国宝』。前々から気になっていたので、先日ようやく観てきました。

歌舞伎が題材ということ以外の情報がない状態で観に行ったのでどんな話なのか、また歌舞伎に教養がない自分でも楽しめるのか不安で観る前から少し緊張していました。

結論、すごく面白かったです。
本当に涙が止まらず、エンドロールが終わってからも泣いていました。

『国宝』について

極道の一人息子として生まれた喜久雄、歌舞伎の名門一家に生まれた俊介。
二人が出会ってしまったことでお互いの人生や周りの人間の人生も大きく狂わせてしまった二人の人生を描いた話。主人公は、喜久雄ですが個人的に喜久雄と俊介の二人が主人公だと思いました。

冒頭に言ったように私は歌舞伎には詳しくなく、学生時代に学校の授業で少し日本の歴史として習ったくらいです。表現技法など全くわからなかったのですが、すごく作中の歌舞伎として楽しんでいました。自分が歌舞伎を観に行った観客のように。

全体を通しての感想

今回の映画で私的に1番印象に残ったことは『血筋」『才能』です。

喜久雄は、10代で父を亡くしその後、俊介の父・半二郎に引き取られて歌舞伎の世界に飛び込みました。俊介は生まれながら歌舞伎役者として育てられて、二人はお互いを意識し練習に打ちこんでいました。
喜久雄はこの場所以外、行く宛もなく必死に練習し、俊介も親や周りの期待に応える為に練習していたのもあると思います。ただ、それだけではなくただ歌舞伎というものに魅了され、舞台に立ちたいという気持ちのが強かったと思います。

順風満帆に見えていた二人でしたが、半二郎が怪我を負ったことで二人の人生が大きく変わってしまいました。半次郎が自分の代役に選んだのは直系の俊介ではなく、喜久雄でした。半二郎は父としてではなく、役者として人選した結果なのだと思います。それでも父として、俊介にはこれを超える役者になって欲しいという気持ちもあったのかもしれません。でも、その判断は結局、二人を周りを苦しめることになってしまいました。

その後、その舞台中に俊介は行方をくらましました。
正直、直系で恵まれた立場の自分は客席で、喜久雄は舞台上。自分は『血筋』だから壇上に上がれていたのだと思うとだいぶ辛いし悔しいだろうなと思いました。ただ、逃げるわけではなくただの俊介として役者を歩みたく花井家から離れたのかもしれません。

ただ、作中で竹野は最初の方に「今はよくても結局選ばれるのは血筋」みたいなことを言っており、その通りに話は進んでいっていきました。

俊介が居なくなってから数年、家督を引き継いだのは喜久雄でした。行方をくらました人間に家督を継がすわけにはいかないですからね…。しかし、半二郎が亡き後、喜久雄には後ろ盾がなくなってしまい、昔のような役をできなくなってしまいました。それでも花井家の名に恥じぬように必死に生きてきた喜久雄の前に俊介が歌舞伎役者として戻ってきました。俊介は、何年も表舞台に姿に立っていなかったのにその後、すぐに役をもらい舞台上に上がることになります。

その時の喜久雄の絶望というか、何もかも意味がなかったのだなと悟った目が、その顔が、印象的で忘れることができません。

どれだけ美しい顔、才能があっても世間も選ぶのは『血筋』だということ血が重要視される世界はどこにでもあるしそれが世襲制ってものだろうなと改めて感じました。

才能は喜久雄、血筋は俊介。それだけだけど、それが重要なんだと。
お互いに自分が持っていないものに憧れ嫉妬し、それでも相手に対して敬意があるから恨むこともできずもがき苦しむ姿が辛かったです。

そこからの喜久雄のもう冷静な判断ができなくなり、どこか自暴自棄で最後には花井家を出て行くことになってしまいました。
それでも歌舞伎を、役者としての人生を捨てることができなかった喜久雄はまた、歌舞伎の舞台上に戻る道を選びました。

『血筋』や『才能』とか関係ない、ただ役者として舞台上にあがっていた頃のように二人で舞台に戻ってきた姿はただ役を演じたいだけの人間でした。

ですが、俊介は病にかかり、舞台に上がることが困難になってしまいました。
それでも最期に喜久雄と二人で舞台に上がり、俊介は息絶えていきました。

俊介が亡くなっても尚、役者を続け『人間国宝』に選ばれた喜久雄。
その際に昔、自分が捨ててきたもの一つである娘・綾乃と再会することになります。私は、ここで綾乃が娘として名乗る前に喜久雄が気づいていたことに驚きました。自分の意思で捨ててきたはずなのに、それでも忘れることができず、自分がしてきたことを忘れないようにしてきたのかなと感じました。

最後、綾乃が父に向けた言葉ではなく役者としては最上級の褒め言葉と共に、喜久雄が求め続けてきた「見たかった景色」で映画が終幕しました。

エンドロール中、だいぶ呆然としてしまいあまり覚えていないのですが、井口さんの歌声だけが頭に響き、さらに涙が止まらなかったです。

印象的だったシーン

いくつかあったのですが、特にこの4つは自分の中でも印象深く残りました。

1.半二郎の最後の言葉

半二郎が亡くなる時に何回も名前を呼び続けたのですが、それが「俊介」だったということです。
その時の喜久雄の顔は、悲しいというよりも「なんで」みたいな驚いているような顔でした。俊介がいなくなってから花井家を半二郎を支えてきたのは自分なのに、最後に呼んだ名前は自分ではなく実子の俊介だった。これは本当に辛かったし、理解できなかったんだと思います。

半二郎の気持ちも理解できます。何年も会えていない我が子を想う気持ち、最後に会いたかったという後悔の気持ち、朦朧した意識の中で無意識に呼んだんだと思います。ただ、家督を引き継いだ時に喜久雄に「お前には後ろ盾がない才能で勝負するしかない」のようなことを伝えていたのに、結局は俊介がいないから代わりに家督を継いでもらったのかというのがわかる最期になったように思えました。

また、万菊の喜久雄を見つめる目がなんていうかどこか冷たいような「そうでしょ」みたいな顔をしていました。万菊は個人的に浮世離れしているというか作中で1番捉えにくい登場人物だと感じていましたが、歌舞伎に魅入られた万菊の考えをわかる方が無理だったのかもしれません。

それでも万菊はなんだかんだ1番、『血筋』とか関係なくただ一人の役者として喜久雄を見てくれていた数少ない人ではあったと思います。

2.ビルの上で舞う姿

花井家を出た後、それでも役者として小さな旅館や壇上でも演じ続けていた喜久雄。
何もかもを捨ててまで役者として生きてきた喜久雄にとって役者を捨てることができなかったんだと思います。ですが、何者でもない喜久雄がうまくやっていけるはずがなく、ある日限界がきてしまいました。

その際に踊った姿が美しく、狂った人間の姿でした。
私は舞が上手い!とか全くわからないただの素人なのですが、色々な感情が渦巻いた姿でただ感情に任せた舞というのは、本当に魅了されるものなのだなと思いました。

自分の運命を恨んでいるのか、自分を認めてくれない人間を恨んでいるのかそれは喜久雄にしかわかりませんでしたが、ビルの上で踊る姿はこのまま消えてしまうのではないかと思うほど儚く、苦しみがこめられたいたように感じました。

ここはCMで観たシーンだったのですが、こんなに重いシーンだと思っていなかったのでだいぶメンタルをやられました。

また、この後に万菊が喜久雄に会いたいと言い再開した時に話していたシーンも印象的でした。
何もない部屋に寝ているだけの万菊。華やかだった舞台から降り、何者でもなくなった姿を見て「あぁこの人も人間なんだよな」と理解できました。

3.俊介と最期の舞台

病を患い治ることないことをわかっていた俊介は最期に喜久雄と二人で舞台に出たいと、上手く動かせない体を必死に使い壇上にあがりました。
もう、俊介と演じることができないことがわかっていた喜久雄もところどころ、役ではなく素の喜久雄の顔に戻っていたような気がしました。

最期に二人で演じた話が半二郎の代表作で、喜久雄の初めての主役だった『曽根崎心中』でした。
好きな人と心中する、話で。
二人はライバルでもあり、友人でもあり、家族でもあり、それ以上の存在だったんだと思います。羨ましくて、憧れで、憎くて、それでも尊敬していて、出会えてよかったそんな関係だったんだろうなとこの最期の演目で、全ての伝えられたような感じがしました。

二人だけではなく周りの人生も変えてしまい、多くの人も不幸にさせてしまっても尚、歌舞伎の魅力に抗えずただ演じ続けてきた人生。

その二人の姿が綺麗で辛くそれでも幸せだったようで、涙が止まりませんでした。
出会いたくなかったけど出会えてよかった、そんな存在…。

4.見たかった景色

恋人、子供を捨て、友人も失い、それでも役者として生きてきた喜久雄。
役者としての名誉ともいえる人間国宝になっても、いまだに歌舞伎に魅了された時の景色を追いかけ続いていました。

そして最後、あの歌舞伎に憧れた日に見た景色を役者としてみることができたのは喜久雄にとってゴールだったのかもしれません。その時の演技がとても美しくて、魅入ってしまいました。

あるもの以外を捨ててきた人間は、数少ない自分が持っているものに対して執着しそれに没頭し、周りはその姿に狂気や美しさを感じるのではないかなと改めて認識しました。また、狂うことで周りからは美しくどこか儚い姿に映るのだと思います。

本当に美しかったです。霞の如く、実体が掴めず、実際に存在しているのか目を疑いたくなるようなそんな感覚…。なんだか不思議な感覚になりましたが、それでもインパクトが強くて目に焼き付いてしまいました。

最高なエンディングでした…。

まとめ

喜久雄が多くの人の人生壊したと言われていましたが、振り回されていたのは喜久雄と俊介だったように見えました。周りの人間に振り合わされても尚、役者として懸命に生きようとした結果が誰かを傷つけ、苦しめてしまったのではないでしょうか。

ただ、個人的には誰も『悪』ではないと思います。本人たちにとって大切にしていたものが違っており、その大切にしたいものに対して歯車が全てずれてしまっていたのだと思います。

喜久雄も俊介もお互いに憧れた『血筋』と『才能』を得ることもできませんでしたが、それでも最後は自分の運命に対して恨むことなく役者として生きられたのだと感じました。

二人が出会ったことで人生はめちゃくちゃになったかもしれないけど交わらなかったら、役者としての人生をこんな必死に生きず、そして喜久雄自身が見たかった景色にも出会えなかったと思います。

全ては最後のシーンの景色を見るために演じ続けてきたのだから。

最後に

本当はもっと感想書きたいのですが、これ以上書くとだいぶ私目線しか伝えられないので、ぜひ観に行ってほしいです!今回、主に喜久雄と俊介のことばかり書いていたのですが、他の登場人物も印象に残る人ばかりなので、そちらにも注目していただきたいです。

国宝

公開してから1ヶ月くらい経っていた上に朝一の回で映画を観に行ったのにそれでも席はほとんど埋まっていました。あまり、パンフレットは買わないのですが今回は久々に買ってしまいました。まだ、読めてはいないのですが、この表紙がどこか悲しく美しくてこの映画のイメージ通りだなって思いました。

また、観に行きたいですし、パンフレットもキャストコメントも確認します!

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